君の声が聞こえる
 僕はその封筒を震える手で受け取ると、その場から走り去っていた。

雅巳の母親は、もう僕を引き止めはしなかったし、僕も雅巳の母親の事を考える余裕はなかった。

 ただ一刻も早く、雅巳からの手紙を落ち着いた場所で読みたかった。

 家に持ち帰ることは出来ない。

 あそこには、良枝と雅樹がいる。

 僕はこの手紙を誰にも見せたくなかったし、誰にも触れさせたくなかった。

 僕は霊園を出てすぐの場所にある古びた喫茶店に飛び込むとコーヒーを一杯注文して、すぐに雅巳の手紙を開封した。

 二年前、雅巳が書いた手紙。まさに死者からの手紙だ。

『   加藤睦月様
 あなたが、私の死から立ち直ってくれて良かったと、心から思っています。

どうか幸せになって下さい。私はあなたに幸せにしてもらいました。今度はあなたが幸せにならなくっちゃね。

 睦月、あなたの事だから心配はしていないけれど、時々でいいから、私の母に私達の子供を会わせてあげてね。

私の死は母のせいではありません。

 私が頼んだ事をそのまま母は守ってくれただけです。

 だから恨まないでください。私の願いはそれだけです。
< 209 / 225 >

この作品をシェア

pagetop