君の声が聞こえる
だから、それは当然な事と言えた。

 雅巳は無神経な加藤君の言葉にどんな態度で接するんだろうか?

「残念。私も運動神経が鈍いんだよね」

「え?そうなんだ」

 意外そうな加藤君の眼差し。そして、何の違和感もない雅巳の態度。いつもと何ら変わりない、雅巳がそこにはいた。

ホッとした。少なくとも雅巳は加藤君の事を何とも思っていないんだと思った。それなのに……。

「じゃあさ、須藤と秋山さん、バスケ部のマネージャーにならない?さっきの奴にさ、マネージャーになってくれそうな女の子がいたら声をかけてって言われたんだ」

「マネージャー?」

 その声音にはどことなく加藤君の言葉に惹かれた様子が聞いてとれた。

マネージャーという仕事に惹かれたのか、加藤君の存在に惹かれたのか、そこまでは読み取れない小さな雅巳の心の動き。きっと長い付き合いの私でなければ気付かないような小さな感情表現。

「あ、私……」

 雅巳が何か言いかけた。それをさえぎる様に私は雅巳の手を引っ張った。

「ごめん、加藤君。私と雅巳はこっち。買い物があるから。じゃあね」

「え?」

 突飛な私の行動に加藤君は呆然として、何も言えなかった。
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