君の声が聞こえる
私は私の事で誰かを恨んだり憎んだりされるのが一番、辛いわ。

 睦月、あなたを愛している。この手紙を書きながら、あなたの事を想ってるわ。

私がこんなにも幸せな気持ちになれるのはあなたという存在がいたからよ。

 だから、いいのよ。それで十分だから、あなたは幸せになってください。
                                  加藤雅巳』


 雅巳らしい文面だ。

 何もかもお見通しの雅巳。

 賢い雅巳。

 優しい雅巳。

 君は生きていた時から、この日が来る事を知っていたんだね。

 僕が新しい家族を築いていくだろうということも。

そして、雅巳の母親を憎む事で自分の均衡を保っていこうとすることさえも。

目をつぶっても、思い出されるのは雅巳の幸せそうな笑顔だけだ。

本当に君は幸せだった?

たった二十年しか生きられなくって、しかも自分の生んだ子供さえ抱きしめてあげる事も出来なくて……。

それでも君は幸せだったのか?

『当たり前じゃない。私、幸せだったわ。大体、幸せは時間の長さで決まるもんじゃないでしょ?』

 雅巳、君の声が聞こえるよ。

 これは幻聴なのか?
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