君の声が聞こえる
その言葉は時に僕を苛立たせたし、良枝や愛奈に申し訳ない気持ちにさせもした。

その日の朝も、愛奈は僕に突っかかってきた。

「いってきます」

 仕事に向かう僕に良枝はいつもの笑顔で「いってらっしゃい、あなた」と見送った。

 雅樹は雅巳譲りの美貌に表情を付けずに「いってらしゃい」と事務的に告げた。

雅樹は雅巳以上に自分の感情を表に出さない。

しかし、愛奈は違う。思いきっり不機嫌な表情で僕の存在を一切無視した。

 僕は愛奈に何か声を掛けなければいけないような気がして笑顔を作った。

「愛奈、気を付けて行ってきなさい」

「フン」

 愛奈は良枝と似た容貌をしているのに性格の方はまるっきり正反対のキツイ性格をしていた。

その性格は僕似なのかもしれない。僕は愛奈の態度に肩をすくめると、雅樹が僕の肩をポンポンと叩いた。

「愛奈は難しい年頃だからね。別に父さんの事が嫌いってわけじゃないんだと思うよ」

「分かっているよ」

 僕の言葉に雅樹は天使のような顔に笑顔を浮かべた。雅樹は妹思いだ。

いつも無表情で思慮深い雅樹が愛奈の事になると表情をほころばせ笑顔を見せる。
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