君の声が聞こえる
 その様子はかつて雅巳が良枝を特別に大切にしていた頃の事を思い出させる。

やはり血は争えないものなのかもしれない。

「じゃ、僕はもう行くよ」

 雅樹が僕に背中を向けて駆け出した。その細い背中を見ながら僕は何かを言わなければいけないような衝動に駆られた。

「雅樹!」

 僕の声に雅樹が振り返る。その時の表情があまりにも、雅巳にそっくりだったので、僕は何を言うつもりだったのかよく分からなくなってしまった。

「何?」

「あ、ああ。あまり無理するんじゃないぞ!車には気をつけろ」

 言っていて自分でおかしくなってしまう。雅樹もそれは同じだったらしく小さく笑って肩をすくめた。

「何を言ってんの?それは父さんだろ。最近、働きすぎだよ。時々、手を抜かないと倒れちゃうぞ」

 僕は雅樹の言葉に笑った。雅樹は僕に手を振ると、振り返らずにそのまま駆けて行く。

その後姿を見ながら、天使のような姿をした我が子と雅巳の姿が重なったような気がした。


 その日も部下と残業をしていた僕はひどい頭痛に顔をしかめた。

「加藤課長どうしました?顔色が悪いですよ」

 その言葉に僕は「ちょっと頭痛がな」と答えた。多分いつもの偏頭痛だろう。
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