君の声が聞こえる
また会えて嬉しいなんて、今ここで言ったら引かれてしまうだろうか?

「それじゃ、私、友達を待っているから」

 彼女にとって僕は、たいした存在じゃないらしい。何の未練も感じられない様子で僕から離れて行こうとする。僕は焦った。

 ここで、何かインパクトに残る事をしなければ、僕の事などすぐに忘れてしまう。

 それだけは嫌だった。

「須藤さん!」

「何?」

「君の事、須藤って呼んでもいい?」

 言ってから後悔した。俺は一体何を言ってるんだ!

もっとマシな事が言えなかったのか?

現に彼女は驚いたように大きな目を見開いて、俺の事をじっと見ている。

「あ……ごめん!変な事、言って……」

 言葉に詰まった僕に彼女は小さく笑いを漏らし、「変なの」と言った。

 確かにインパクトに残る事は出来たようだが、それが「変なの」というのはどうなのだろう?喜べない気がする。

「いいよ。須藤で。その代わり私は加藤君のこと、加藤って呼ぶね」

「え?」

「じゃ、まったね」

 小さく手を振りながら、僕から離れていく雅巳を抱きしめたい衝動に駆られた。もちろん、そんな事はしない。そんな事をしたら立派な変態の仲間入りである。
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