君の声が聞こえる
 いったい何の?と聞こうとして雅巳の笑顔にぶつかる。まるで僕の聞きたい事などお見通しだとばかりの笑顔。

「女の子には人に言えない事があるのよ」

 なんだか秘密めいた言葉に妙にドキドキした。それは言葉には出来ない秘密の香
り。
「そ、そうなんだ」
 僕の声も自然に上擦ってしまう。
 そんな僕の焦る姿を雅巳は楽しんでいるようだった。表情には微笑みを浮かべたま
ま、僕の顔を見ている。
 せっかくお邪魔虫がいないというのに、これではいつもと変わらないじゃないか!

 次に繋がるような一言を言うんだ!

 映画とかに誘ってみたり、さ!

 懸命に自分の自分に言い聞かせて、口を開こうとした時、雅巳が立ち上がった。

 どうやら雅巳の会計の計算が終わったらしい。会計の窓口の方に歩いていくのが見える。その背中を見送りながら、どっと疲れてしまっている自分がいた。

 会計を済ませた雅巳は僕の方に戻ってきた。

「私、もう帰るね。それじゃ、また大学で」
 一応、一言別れの言葉を言いに来たらしい。
「ちょっと待って!」
「うん?」

「俺も帰るからちょっと待っていて!」

「は?」


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