君の声が聞こえる
 こうやって並んで歩く事自体、久し振りの事だった。

北門で偶然会ったあの日以来の事である。

あの日でさえ、良枝に邪魔されて一緒に歩いた時間は微々たるものだった。

 僕は雅巳の端正な横顔を見ながら、幸せを噛み締めた。

雅巳からは、いつも甘い匂いがしている。男を誘う匂いなんていったら怒られそうだが、まさにそんな感じなのだ。

 別に雅巳のHアピールが凄いかと言うとそうでもない。むしろ胸はないし、体も細いので、体つきに女らしさとかを感じる事はできない。

それを言うなら、良枝のほうが背の低いわりに肉感的な体をしていると言えよう。

 それでも雅巳の隣にいると、何だか落ち着かない気持ちになって、抱きしめてしまいたい!と思ってしまうのだ。

「つらいでしょ?」

 突然、声をかけられて雅巳が何を言いたいのか理解できなくて困った。まさか僕の心を読んで、口にした言葉ではあるまい。

「何が?」

「何がって頭痛。病院に行こうと思っていたぐらいだから、ひどいんでしょ?」

「ああ、頭痛ね」

 僕はホッとした。雅巳の澄んだ瞳に僕の黒い欲望を見透かされているような気がしたからだ。

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