君の声が聞こえる
だからどうして彼女がこんな表情をするのか、分からなかった。

 そんなに僕と映画に行くのが嫌なのだろうか?

「どうしてって……」
「友達として?」

「え?」

「友達として、それ以上の関係を望まないなら映画、一緒に行ってもいいわよ」

 雅巳は、とても難しい言い方をした。

 友達として、それ以上の関係を望まない。

 それは僕の気持ちに一番遠い感情だ。僕は雅巳の友達になりたいんじゃない。

いや、初めのうちは友達でも構わないのだ。それでも最終目的は彼女の特別な存在になる事。それが僕の彼女に対する気持ちだった。

 彼女の言葉は、映画に行く事で僕との関係を『友達』と確定しようとしている。それなら一緒に映画なんて行きたくない。

「じゃあ、いいや。映画なんて一緒に行かなくても」

「何で?」

 雅巳の表情が暗くなった。もう彼女の顔に微笑みは浮かんでいない。

「俺は須藤と友達でいたいわけじゃないから」

 雅巳は大きな目を見開いて首を振った。

「そういう事を言わないで!加藤、私の事を絶対に好きになったりしたら駄目だからね!」

 雅巳は僕に背を向けた。こういう時、普通ならきっと後ろを振り返らずに、走り去っていくのだろう。
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