君の声が聞こえる
 それが雅巳の答えだった。一瞬も考える間もなく、雅巳はそう答えていた。

 そして、落ち込む三倉君にこう言葉を続けたのだ。

「私は、三倉君に好きになってもらう資格なんてないよ」

 その言葉に言われた三倉君は大きな声を出した。

「資格なんて関係ないよ!僕が須藤さんを好きになっただけだ!」

 三倉君は、本来こんなに大きな声を出したりする人間じゃない。

むしろ静かに話す優しげな人だった。そんな三倉君にとって本当に大きな存在だったんだろうと思う。

「ねえ、三倉君。私が三倉君の事を好きだったとして付き合うとするじゃない?三倉君は、いつ死んでしまうか分からない女と付き合って幸せ?」

 三倉君は雅巳の言葉を聞いて絶句した。

高校生にとって『死』というものは、最も遠くにある架空の出来事だ。三倉君もそれは例外ではない。

しかし、雅巳にとって、それは架空の出来事ではなかった。

 雅巳は体育の授業に参加する事はなかった。

雅巳が常に薬を持ち歩いている事は、誰もが知っている事で、認識はしていたが、実感としては薄かったのだろう。

 確かに普段、笑顔で明るい雅巳を見ていると付き合いの長い私でさえ、雅巳の病気の事など忘れてしまう。
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