君の声が聞こえる
須藤といられるこの時間に死ねるのなら、僕はきっと後悔しない。

「本当に加藤はいつも私の事を驚かせてばかりいるね」

 嘆息をもらしながらも、雅巳は僕から目をそらさなかった。

 雅巳が吐き出した息には、いろいろな感情が交じり合っているような気がした。

「私ね、小さい頃、十歳まで生きられないだろうって、ずっとお医者さんに言われていたの。でも、まだ生きている。それってすごい事だと思わない?」

「……」

 僕は雅巳に何て言葉を掛けたらいいか分からなかった。

 加藤、私の事を絶対に好きになったりしたら駄目だからね!

 あの言葉を口にした雅巳の気持ちをこんな形で知る事になるとは思わなかった。

 言葉を紡げないでいる僕に雅巳は優しい眼差しを注いだ。

「奇跡だわ……私が加藤に会えたこと……そう思わない?」

 雅巳の言葉に僕は頷いていた。確かに奇跡と言っていいかもしれない。十歳まで生きられないだろうと医者から言われるほど、重い心臓疾患を持っている雅巳と僕が出会えた事、それは確かに奇跡と言っていい事だった。
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