君の声が聞こえる
 そんな二人が両想いになって一緒にいる事はごく自然の事で、それを邪魔しようとしていた私の方がおかしかったのだ。

それでも両方を失ってしまったような気持ちは、どうしても拭えなくて苦しい。

 心の中では納得しなければいけないと思っている。それでも感情がついていかないのだ。

 私は、そのまま保健管理センターを後にしようとした。

「良枝?」

 二人に気づかれないように、その場から離れようとしたのに、雅巳が私の名前を呼んだ。

 雅巳の声は以前と変わらず、優しくって心に染みる声だった。雅巳が私の名前を口にしたのは久しぶりの事で、その声を聞いたら泣きたくなった。

 加藤君がカーテンを開き、私の視界の中に雅巳の優美な微笑みが飛び込んでくる。

 この時、私は心から雅巳が生きていて良かった、と思ったのだ。もう、加藤君を取られた、とかそんな気持ちはどこかに飛んでいってしまっていた。

 目の前にいる天使のような姿をした親友が、私の名前を呼んで笑顔を向けていてくれるという事がこんなにも私にとって大切な事だったなんて思わなかった。

「心配してくれたの?」

 雅巳の言葉に私が頷いた。恥ずかしくて顔が赤くなっている。
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