君の声が聞こえる
 雅巳がいないのを狙って、声をかけた私に加藤君は訝しげな表情を隠さなかった。

「もうすぐ、雅巳の誕生日じゃない?何がいいか一緒に選びたいと思うんだけど」

 まるで言い訳をしているみたいだ、と自分でも思う。でも、下心がある私としては仕方ない事かもしれない。

「え?須藤の誕生日ってもうすぐなの?」

「まさか……加藤君、雅巳の誕生日がいつなのか知らないの?」

 付き合っているのに?という気持ちをこめて驚いたような眼差しを向けた私に加藤君は恥ずかしそうに目を反らした。

「だってさ、今さら誕生日が、いつなんて聞けないだろ?」

 聞いた日が誕生日だったら思いっきり気まずいじゃないか、と呟く加藤君に私は微笑ましい気持ちになる。雅巳に対してあんなに積極的な加藤君に、こんな小心者の部分があるなんてなんだか可愛い気がしたのだ。

 私が、そんな事を口にしたら加藤君は思いっきり嫌な顔をするだろうけど。

「雅巳の誕生日は四月六日よ。あと一カ月くらいしかないでしょ?」

 一カ月もあれば、と思う人もいるかもしれないが、雅巳のいない日というのは、殆どと言っていいほどない。

私は加藤君と二人だけで、一緒に過ごしたかった。
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