君の声が聞こえる
 並んでバス停に向かいながら、私は加藤君に話し掛けた。

「加藤君は、今日、雅巳に何か買う?」

「俺?今日は選ぶだけにしておく。まだ一カ月あるからバイトして金を貯めたら買いにくるつもり」

「そっか。じゃあ、私は加藤君と同じものにならないようにしなくっちゃ」

 あくまで一緒に行くのが不自然じゃないように話す。内心では、感情の欠片が見えていないだろうか、と自分でもヒヤヒヤしていた。

 でも、今だけは……今、こうしている時間だけは加藤君との時間を共有しているのが私なのだという満足感が私の気持ちを満たしている。

「俺……須藤に指輪を贈ろうと思うんだ」

「え……」

「俺さ、須藤の指輪のサイズとかよく分からないし、女の子の指輪なんて買うの初めてだから秋山さんにいろいろ教えてもらえると助かる」

「あ、うん。そうなんだ……。分かった。任せておいて!雅巳に似合うのを選らぼうね!」

 笑顔で加藤君に答えながらも、心はささくれ立っていた。

 今までの楽しかった気分はすっかり、どこかに消えてしまったような気がする。加藤君との時間を共有しているなんて、思い違いも甚だしいのだ,という事を思い知らされた。
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