君の声が聞こえる
加藤君の心の中には雅巳しかいない。

 分かっていたはずなのに、それを見せつけられるのは本当にツライ事だった。

 デパートに着いた私は必要以上に明るく振舞った。それが私の精一杯の強がりで、加藤君に気持ちを知られないために、私が出来る唯一の事のような気がしていた。


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 私は雅巳の誕生日プレゼントに二冊の本を選んだ。

加藤君に雅巳が読みたがっていた本の事を聞いて、その本に決めた。ハードカバーの分厚い本は、いかにも雅巳が好みそうな純文学の上下巻だった。

 その後、加藤君に付き合ってデパートの二階にある宝石店に向かう。

そこは本格的な宝石店でお値段もかなり高い。大学生の私達には敷居が高い店だった。テレビのCMでもよく流れていて支店も日本中にある大きな宝石店だ。

加藤君は飾られた指輪やネックレスガラス越しに見ながらカニ歩きで移動している。

「高いな」

 大学生の誕生日プレゼントには一桁高い品々に加藤君の口から溜息が漏れた。

 それでもシンプルな形のシルバーリングの前で、加藤君の視線と動きが止まった。

「なあ、秋山さん、あれ、須藤に似合うと思わない?」

 加藤君の言葉に私のそのリングに視線を集中させる。
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