君の声が聞こえる
 加藤君は店の人に指輪のサイズの事と取り置き出来るかを聞いていた。

 私はその様子を少し離れた所で見ながら、自分のピエロ振りがなんとも情けなく思えた。

 こんなに好きなのに、それを伝える事は出来ない。指輪を買う相談にも乗って、雅巳と加藤君の気持ちを再認識させられて……。

 こんな事なら、一緒に誕生日プレゼント買おうなんて誘わなければ良かった。

「秋山さん」

 店の人と話し終えた加藤君が私の名前を呼んだ。私が加藤君の待つ方へ行くと、加藤君はニコニコしていた。

 どうやら、物事は加藤君の望む方に決まったらしい。

「サイズを直してもらって取り置きしってもらう事になったよ。来週にはサイズ直しができているからお金はその時でいいって事になった。秋山さんが相談に乗ってくれて助かったよ。お礼にお茶でも奢りたいんだけど、時間は大丈夫?」

「え。でも誘ったのは私の方だし、悪いよ……」

「いや、俺も助かったし、せっかくここまで出てきたんだからさ」

 下心があって誘ってくれているのなら喜べるが、そうじゃないのが分かっているから心から喜ぶことは出来なかった。でも、そういう加藤君を好きになったのだ。
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