君の声が聞こえる
　塩谷さんは私にも頭を下げ、手を差し出してきた。私はその手を握り返す。

塩谷さんの手は温かく、人の温もりが私を我に返らせた。

　雅巳と目が合った。雅巳は私の気持ちなどお見通しだというように小さく笑って、口を開いた。

「良枝を驚かせてしまったみたいね。お父さんの事は先週、お母さんに聞いたばかりなの。私もお父さんは死んでしまったって聞いたから驚いたわ。でも、お父さんが私に会いたがっているって聞いて、会う事になったの」

　言い訳には聞こえなかった。雅巳は私の心を読んだように、答えを用意して、私が聞きたかった事を聞かせた。雅巳は本当に不思議な人だ。私自身よりも私の事を理解しているんじゃないか、と思わせる時がある。

　それから私たちは雅巳の席で塩谷さんを交えて一時間ほど話をした。

　塩谷さんは穏やかな人柄の人のようで、静かに微笑みながら私たちの話を聞いていた。

　塩谷さんは笑うと雅巳にそっくりになる。

こんなにいい人なのに、どうして雅巳のお母さんは塩谷さんと別れたのだろう？

私は塩谷さんの笑顔を見ながら、それが不思議でならなかった。

< 81 / 225 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop