君の声が聞こえる
痛む心
(by・睦月)
「死んでしまうんですって」
塩谷さんと良枝と別れた後、僕は雅巳を家まで送っていく事にした。雅巳は二人きりになると暗い目を遠くに向けその言葉を口にした。
僕は最初、聞き違いをしたのかと思ったが、僕の考えを一掃するかのようにもう一度雅巳はその言葉を口にした。
「私のお父さん、癌で余命があと三カ月って言われて、私に会いに来たらしいの。残りの人生を後悔したくないって、お母さんに言って私に会いに来たらしいわ」
「須藤……?」
「お母さんは私とお父さんを会わせたくなかったらしいわ。だって私にはずっと死んだって言ってきたんですものね」
いつになく、口数の多い雅巳に戸惑いを隠せなかった。
「須藤!」
僕の出した大きな声にようやく雅巳が我に返ったような表情を向けた。
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえているわよ」
苦笑まじりに紡いだ言葉は表情と裏腹だった。暗い表情にどこか疲れたような雰囲気を醸し出している。
「須藤、どうしてそんな顔しているんだよ……」
十八年ぶりに会った父親がこれから死に逝く人だというだけでない悲しみが雅巳から感じる事が出来る。
(by・睦月)
「死んでしまうんですって」
塩谷さんと良枝と別れた後、僕は雅巳を家まで送っていく事にした。雅巳は二人きりになると暗い目を遠くに向けその言葉を口にした。
僕は最初、聞き違いをしたのかと思ったが、僕の考えを一掃するかのようにもう一度雅巳はその言葉を口にした。
「私のお父さん、癌で余命があと三カ月って言われて、私に会いに来たらしいの。残りの人生を後悔したくないって、お母さんに言って私に会いに来たらしいわ」
「須藤……?」
「お母さんは私とお父さんを会わせたくなかったらしいわ。だって私にはずっと死んだって言ってきたんですものね」
いつになく、口数の多い雅巳に戸惑いを隠せなかった。
「須藤!」
僕の出した大きな声にようやく雅巳が我に返ったような表情を向けた。
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえているわよ」
苦笑まじりに紡いだ言葉は表情と裏腹だった。暗い表情にどこか疲れたような雰囲気を醸し出している。
「須藤、どうしてそんな顔しているんだよ……」
十八年ぶりに会った父親がこれから死に逝く人だというだけでない悲しみが雅巳から感じる事が出来る。