君の声が聞こえる
見ている方がつらくなる。そんな表情をしていた。

　雅巳は目を閉じて深い溜息をついた。

「人の死って……自分の事を考えさせられるの。私は今、ここで死んでしまったら、きっと後悔だらけの人生だろうな、とかね」

「何でそんなこと考えるんだよ！」

　僕はいつだって雅巳のそばにいて、雅巳の事を想っている。

　それなのに雅巳は、今、暗い海の底にいるように、自分の死について考えている。

　二人は一緒にいるのに、まるで違う方向を向いていた。それは僕にとって本当にショックな事だった。

愛がすべてなんて臭い台詞を言うつもりはないけれど、雅巳には僕と一緒にいる事だけを考えて欲しい。僕が雅巳を想っているのと同じ分だけ雅巳にも僕の事を想っていて欲しい。

　それを望んではいけないと、分かっているけれど。

「私はすごく贅沢になっているのかもしれない。初めは加藤が私を好きでいてくれるだけで幸せだったの。でも、もっと一緒にいたいと望んでしまうのよ。そんなことを思ってしまう私がおかしいのは分かっているけれど」

　雅巳の言葉に、僕は本当に驚いた。

　雅巳を臆病にさせているのは僕の存在なのだ、という事実がそこにはあった。
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