君の声が聞こえる
「須藤、一緒に暮らそうか……」

 雅巳は僕の言葉に驚いたようだった。そんな事、考えたこともなかった、という表情で僕の顔を見つめている。

「だって無理だよ。私達、まだ学生よ?」

「今すぐには無理かもしれないけれど、大学卒業したらすぐにでも!」

 僕の言葉を聞いて、雅巳の表情がようやく柔らかくなった。

「私って駄目な人間かもしれないわ」

「どうして?」

「だって……私、加藤のその一言ですごく幸せな気持ちになれるの。今はそんな気持ちになっている場合じゃないって分かっていても、加藤の事を考えると、とても幸せになれる」

 僕は雅巳の事を抱き締めたくなってしまった。もし、ここが雅巳の家に向かう途中の歩行者用の道でなければ、雅巳を抱き締めてしまっていたかもしれない。

 しかし、多くの歩行者がいるここで、そんな事ができるほど僕は馬鹿ではないつもりだ。それでも自分の気持ちを伝えたくて僕は雅巳の手を握った。

 雅巳が驚いたように僕の顔を見る。

「須藤の家に着くまで、こうしていよう」

 雅巳の手は冷たくってしなやかで、まるで彼女自身を表しているようだった。
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