君の声が聞こえる
絡ませた指はとても細くて、ぼんやりと、さっき触れた良枝の指よりも細い事を確信した。

 サイズを直してもらって正解だった、と思いながら雅巳の手を強く握ると、雅巳は何か僕に言おうとした。

「加藤……あのね。良枝は……ううん、何でもない」

 良枝の名前を口にしてから苦しそうに首を振った雅巳に僕はハッとさせられた。

 今まで雅巳の父親の出現に気をとられていたが、冷静に考えれば僕は良枝と二人きりだった。

雅巳にしてみれば一体二人で何をやっていたの?って事になるだろう。

「あ、あれは違うからな!別にデートとかじゃないから!」

 慌てて弁解を始めた僕に、雅巳の方が面食らったようだった。

「え?加藤達デートしていたの?」

 どうやら雅巳が言いたかったのはその事ではなかったらしい。つまりは僕のヤブヘビだったのだ。

「違う違う!デートじゃないって言っているだろ」

「分かっているわよ、そんな事。冗談よ……」

 そう言いながら雅巳は目を伏せた。まるで彫刻のように整った芸術的な横顔に影が落ちる。雅巳は時々こういう顔をする。

 何かに対して申し訳なさそうな表情。

 一体、雅巳は僕に何を言おうとしたんだろうか?

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