君を愛す ただ君を……
「今回の試験で、母親を見返してやりたかったんだ。部活をやっていたって、成績は落ちないって」

越智君があたしの鞄を手にすると、廊下を歩き始めた

越智君の口から『母親』という二文字の言葉を聞いて、あたしの肩が大きく揺れた

『いまさら、部活なんて。愁一郎には、将来があるの。あなたとは違うのよ』

頭の中で、越智君のお母さんの言葉がリピートされる

「全問正解じゃなくても。1位になった時点で、お母様は驚くんじゃない?」

あたしは笑顔を無理やり作ると、越智君の横顔を見つめた

越智君は、寂しそうなそれでいて悔しい顔をして頭を振った

「いや。そんな生優しい人じゃないんだ。涼宮は、俺の母親を見たことがないからわからないのかもしれないけど。簡単には、自分の気持ちを折ったりはしないんだ」

知ってるよ

越智君のお母さんには、朝、会ったよ

越智君の前に姿を見せるなって、はっきりと言われたの

越智君と別れて…じゃなくて

姿を見せるなって、すごい徹底ぶりじゃない?

絶対に、認めたいって言葉からも、態度からもピリピリと伝わってきたよ

反論もできなかった自分が、すごく悔しくて情けないよ

越智君が好きなのに、越智君のお母さんのパワーには勝てそうにないの

あたしは、越智君の腕に手をかけた

「涼宮?」

越智君が、不思議そうな顔をして足をとめた

「なあに?」

「いや、涼宮から俺に触れてくるなんて珍しいから」

「駄目?」

「ううん、すごく嬉しいよ」

越智君が、目を細めて微笑んだ

言葉通り、越智君は嬉しそうに眉尻を下げて幸せそうな表情をしていた


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