君を愛す ただ君を……
「越智君……」

あたしは越智君の肩に手を置こうとすると、越智君の腕に拒まれた

「金は気にすんなって言ったよな? 俺……」

長い足を折り曲げたまま、越智君が苦しそうな声を絞り出した

「愁を傷つけるなんて最低ね、陽菜って」

今まで静かに聞いていたしぃちゃんが、カツカツと足音を鳴らして近づいてきた

越智君の前にしぃちゃんが立つと、あたしを睨みつけた

「しぃちゃん……あたし、越智君を傷つけるつもりは…」

「でも結果的には、傷付けた。彼の気持ちを知っておきながら、彼の家のお金を貰うなんて。自分のために…お金が必要だったから、彼の気持ちを切り捨てたのよ」

「あ…そんなつもりじゃあ」

あたしは下を向くと、コートの裾をぎゅっと掴んだ

「あたし、越智君が好きだよ。越智君に告白されたときは、断ったけど。それから何となく越智君の存在が気になるようになって、いつの間にか越智君の姿を探すようになってた。好きだって気付いたときには、もうしぃちゃんと付き合ってたし、あたしに残された時間は少ないってわかってたから……越智君と付き合えなくても、しぃちゃんと楽しく毎日が過ごせればいいって思ってた」

「じゃあ、なんで楽しい毎日を壊したのよ!」

しぃちゃんの恨みのこもった声が、あたしに突き刺さった

あたしは落ちてくる涙を指で拭うと、拳で自分の頭をコツンと叩いた

「どうしてかな? 越智君が、まだあたしを好きでいてくれてるってわかったら、日に日に我儘になっていくの。遠くで見ていられればって気持ちから、傍に居たい…傍に居たら、もっと一緒に居たい。もっと話したい。越智君に、あたしを女として扱ってもらいたいって。そしたら…いつ死んでも悔いのないように生きようっていう気持ちから、死にたくない…もっと長く生きたいっていう気持ちに変化してた。手術して、この心臓の鼓動の回数が増えるなら、怖いけど、手術を受けてみようって」

あたしは乾いた笑いを、コンビニの駐車場に響かせた


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