君を愛す ただ君を……
あたしと大ちゃん
「遅くなるなら、きちんと連絡しなきゃ駄目だよ?」

家までの帰路の途中に、大ちゃんが心配そうに口を開いた

あたしはコクンと頷くと、隣を歩く大ちゃんの横顔を見つめた

中学から始めた短距離走で鍛えた身体には、スーツが少しきつそうに見える

すらりと伸びて足が、あたしの歩幅に合わせて小ぢんまりと動いていた

小さい顔に、さわやかな顔は、まるでテレビの中にいそうな俳優さんみたいだ

「ごめんね。つい友達といると、時間を忘れちゃって」

越智君ともっと一緒に居たいって、日に日に我儘になっている自分がいるの

しぃちゃんの彼氏なのに

デートの邪魔をしているってわかっているのに

あたしって悪い女だよね

「本当に友達?」

「え?」

「越智愁一郎…陽菜の彼氏じゃないの?」

「違うよ。しぃちゃんっていうあたしのクラスメートの彼氏だってば!」

「本当に?」

「本当だよ。大ちゃんに嘘を言ってどうするの?」

「なら、良かった」

大ちゃんが、嬉しそうに頬笑みんだ

え? どうしてそんな顔をするの?

「僕さ、今日から陽菜の家でお世話になるから。よろしくね」

大ちゃんがウインクをした

「あっ、じゃあ。また大ちゃんと暮らせるんだね。大学生のときに居候して以来だから、もう3年ぶりくらいだね」

あたしは一人っ子だったから、大ちゃんがいるとママが喜んでた

ほんとは男の子も欲しいって言ってたママだったから、大ちゃんはわが子みたいに可愛がっている

「前回のときとは…ちょっと暮らす意味が違うけど」

「え?」

大ちゃんが小声で呟いた言葉が、あたしにはよく聞き取れなかった

「ううん、何でもないよ。ちゃんとおばさんに謝るんだぞ」

「わかってるよ」

大ちゃんの大きな手の平が、あたしの頭の上に乗った

優しく撫でる大ちゃんの手を見つめながら、越智君がしぃちゃんの頭を撫でるシーンを思い出した

この手が、越智君だったらいいのに……
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