君を愛す ただ君を……

「この泥棒猫っ！」

パチンと乾いた音とともに、越智君のお母さんに怒鳴られた

生温かい唾が、あたしの頬につぶかってくる

「愁一郎から連絡があったわ。貴女から、全てを聞いた…と。家に帰らないと言って…それきり連絡がとれないのよ。どういうこと？　愁一郎はどこにいるの！」

越智君のお母さんが、あたしの胸倉と掴むと、上下に激しく揺らした

「ちょっと…」

隣の部屋から顔を出した大ちゃんが、慌ててあたしと越智君のお母さんの間に割って入ってくれる

あたしは、くらくらする視界で、床にへたり込むと、大ちゃんが抑え込んでいる越智君のお母さんを見つめた

「何するのよ！　息子の居場所を聞いているだけよ」

「聞くにも、やり方があるんじゃないですか？」

「この泥棒猫が、愁一郎をおかしくさせたのよ。部活を始めたり、学校の帰宅時間が遅くなったり……」

大ちゃんに向かって、越智君のお母さんが怒りを爆発させている

あたしは、落ちてきた髪を耳にかけると、床をじっと見つめた

「陽菜は、越智君の居場所を知りませんよ。今日だって、僕と一緒に家に帰宅をしたのですから」

え？　あたしは大ちゃんの背中を見上げた

どうして嘘をつくの？

これ以上、越智君のお母さんの怒りを爆発させないため？

「本当に知らないの？」

「ええ。学校でも、必要以上に接近はしてないですよ。陽菜は、約束を破るような子じゃない。手術代のためとはいえ、約束をしたのでしょう？　なら、陽菜は守ります」

大ちゃんの言葉に、越智君のお母さんの怒りがおさまって行くのがわかった

肩を力を抜いた越智君のお母さんが、大ちゃんの腕の中からすっと離れた

「それもそうね。愁一郎が勝手に家を飛び出したのね。あの子の居場所は、こっちで調べるわ。くれぐれも愁一郎には近づかないで頂戴」

あたしを睨んだ越智君のお母さんが、スタスタと階段を下りて行った