君を愛す ただ君を……
「昨日、何があったんだよ」

越智君が投げやりな言い方で質問してきた

「越智君のお母さんがまた来たの。居場所を教えなさいって。泥棒猫って言われちゃった。お母さん、すごく怒ってたよ?」

「怒ろうがどうしようが、俺には関係ねえよ」

「越智君には言ってないらしんだけどね。越智君には、許嫁がいるんだって。将来、病院の跡を継ぐ越智君に相応しい女性だって言ってた」

越智君が振り返ると、怖いくらいのまっすぐな視線であたしを捉えた

「相応しいって何だよ。意味がわからねえよ。涼宮は、それで俺と離れるって決心がついたのかよ」

「わかんない」

「は?」

越智君の眉間にしわが寄った

「どこまでいっても、あたしは越智君のお母さんには認められないんだって気がしたの。昨日のお母さんの顔…すごく怖かった。誰かに頬を叩かれるなんて、初めてで。この人に、こそこそと隠れてまで、あたしは、あたしの想いを貫くなんてできないって思ったの」

越智君が唇をかみしめると、大股であたしに近づいてきた

あたしの両肩をがしっと掴むと、悲痛な表情になった

「俺の気持ちはどうなる。涼宮を想う俺の心はどうしたらいいんだよっ」

あたしは何も言えずに、首を横に振るしかできなかった

「俺は、涼宮が好きだ。涼宮以外の女なんかいらない」

越智君が、あたしを引き寄せてからぎゅっと抱きしめてきた

強くて、腕が折れちゃうんじゃないかってくらい、痛くてそして熱かった

「あたしも越智君が好きだよ。でもどうにもならないことってあるんだと思う」

「ねえよ…そんなもの。お互いが好きなら、離れなきゃいいだけなんだから」

「越智君には、将来があるんだよ」

「涼宮にだってあるだろ」

「両親に期待されている重みが違う」

「違わない。俺が医者の道に進むことで、結婚相手まで親に決められるのなら…俺は医者になんてならねえよ」

「でも約束したんでしょ?」

< 119 / 507 >

この作品をシェア

pagetop