君を愛す ただ君を……
「じゃあ、またね…って、もう会えないけど」

越智君の部屋の前であたしは、にっこりとほほ笑んだ

最後くらい、笑顔で別れたい

もう会えないのなら、涙よりも、満面の笑みで越智君の記憶にとどまって居たいよ

越智君はなんとも言えない表情で、ドアを開けたまま立っている

「俺、家に帰るよ。母親は許せないけど、いつまでもこの生活が続くとは思わないから。涼宮、手術……頑張れよ」

「ありがと」

越智君の顔には、笑顔が広がった

寂しさと悲しさの入り混じる笑顔が、越智君の顔を支配する

あたしは鼻の奥がツンとすると、目頭が熱くなった

深呼吸をして落ち着こうとしたけれど、息を吐き出すときにはもう、涙が目から溢れだしていた

「ごめ…あたし、笑顔でお別れしようって思ってたのに」

あたしは零れてくる涙を、手の甲をぬぐっていると、越智君がそっと抱きしめてくれた

「いいんだ。泣けよ。俺の胸で…泣いてくれ」

あたしは越智君に引きずられるようにまた、部屋に戻った

ぱたんとドアが閉まる音が背後で聞こえた

越智君の唇があたしの涙をそっと吸い取った

あたしたちは手を繋ぎ合うと、触れるだけの優しいキスを何度となく繰り返した

「俺、携帯のアドレスを変えないから。何かあったら、いつでも連絡をくれよ」

キスとキスの合間で、越智君が熱い吐息を漏らしながら言葉にした

「涼宮、愛してる」

「あたしも…越智君が好きだよ」

あたしたちは、キスをしながら互いの身体を抱きしめ合った

もう会えない…会わない

そう思うと、越智君からなかなか離れることができなかった

< 121 / 507 >

この作品をシェア

pagetop