君を愛す ただ君を……
ガラリと扉が開くと、パチと室内の電気がついた

あたしは眩しそうに手をかざしながら、布団の中から顔を出した

「愁一郎はどこ?」

「え? なんですか?」

あたしは、身体を起こすと、不思議そうな態度を装った

「来てるんでしょ!」

「もう面会の時間は過ぎてるはずですけど…?」

「隠さないで。いるんでしょ。どこにいるのっ! 愁一郎、出てきなさい」

個室のトイレを開けたり、ロッカーの扉を開けたりと、越智君のお母さんは人が隠れられそうな場所を、探した

どのドアを開けても、あたしの私物ばかりが出てくるだけで、人の気配はない

越智君は窓から出て行ったんだもん

部屋を探しても、越智君はどこにも居ないよ?

「どこに隠したの? 私の目を盗んで愁一郎と会うなんて……どこまでも最低な女なの?」

「あたしは…今まで寝ていました。越智君がどうしたんですか?」

あたしは、部屋中探し終えた越智君のお母さんの姿を見つめた

髪を振り乱して、あたしを睨むお母さんが、なんだか哀れに感じた

どうしてこの人は、ここまで越智君に執着をしているのだろうか?

「嘘をつかないで。勉強している振りをして、部屋を抜け出して…行くところ言ったら、ここしかないでしょ」

「もっと越智君を信じてあげたらどうですか? あたしたちはもう別れました」

「口先ではどうとでも言えるわ」

越智君のお母さんの手が天井へと振りあげられた

あたしは叩かれるのだと思い、身を縮めた

「こんな時間に何をしてるんだ!」

越智君とよく似た低い声が、病室内に響いた

「あ…アナタ!」

越智君のお母さんが、勢いよく振り返ると、あたしを叩こうとした手をさっと隠した

「この子は明日、手術をするんだ。余計な刺激を与えるな」

「だって…この泥棒猫は……」

「泥棒猫?」

越智君のお父さんの目が、あたしに向く

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