君を愛す ただ君を……
「何よ!」

越智君のお母さんが、看護師を睨みつけた

「言われたとおりにご自宅のほうに電話しましたら……」

看護師が恐る恐る子機を、越智君のお母さんに差し出した

「もしもし? ……え? 愁一郎? その声は愁一郎なの? 今、家にいるの?」

『あ? んだよ。家に居るから、家電にかかってきた電話に出てるんだろうが』

越智君の不機嫌な声が、室内に漏れてくる

越智君のお母さんの顔がぱあっと晴れやかになると、まるで恋をしている少女のように嬉しそうな顔をなった

「どうして部屋にいないのよ!」

『はあ? 風呂に入りにいっちゃいけないのかよ』

「お風呂?」

『…てか、どこから電話してんだよ。俺、裸で寒いから電話、切るからな』

ブチっと越智君がさっさと電話を切断する音が聞こえた

「ほら、お前の勘違いだったじゃないか」

越智先生が腕を組んで、怖い顔をした

越智君のお母さんは、子機を越智先生に投げるように渡すと、ふんっと鼻を鳴らして病室を出て行った

「…ったく」

越智先生が呆れた声をあげると、ふぅっと息をついた

「すまないね。君には妻が迷惑をかけているみたいだ」

「あ…いえ」

あたしは首を横に振った

越智先生は、子機を看護師に渡すと、「少しいいかな?」と病室のドアを閉めた

先生と二人きりになったあたしは、枕をクッションがわりに背中に挟んで、先生と向かい合った

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