君を愛す ただ君を……
「あ…でも実は、ついさっきまで…」

あたしは指先をもじもじと動かしながら、ぼそぼそと言い難そうに言葉に出した

「居たんでしょ? 愁が」

「…はい、すみません」

「君が謝ることじゃないよ。どうせ愁が勝手に押しかけてきたんでしょ? 病院にいるってわかってるのに、じっとしてるタイプじゃないでしょ…アイツは」

先生が呆れたように笑い声をあげた

「先生は、反対してないんですか? あたしが越智君と付き合ったことを」

「愁の気持ちは、きちんと話をして理解をしたよ。親としてできることは、アイツが学生の本分を忘れないようにするだけじゃないのかな? 君と付き合うことで、高校生らしい生活を逸脱するなら、そりゃあ父親として怒るべきだし、交際を反対するけど。君と付き合うようになってからの愁は、とてもイキイキしている。反対する理由はないよ。むしろ別れて欲しくないなあ。家の中で荒れそうで嫌なんだけど」

先生が、苦笑してこめかみをぼりぼりと掻いた

「先生にそう言ってもらえて嬉しいです」

あたしはほっと息をつくと、先生に微笑んだ

「退院したら、愁ともう一度、話をしてみたらどうだい?」

あたしは、先生の提案に首を振った

「越智君は好きです。大好きです。でもお母さんの反対を押し切ってまで、続けるのには…ちょっと」

「昔はあんなヒステリックじゃなかったんだけどなあ」

先生が遠い目で、切なそうに呟いた

「愁はきっと君を諦めないと思うよ。だからお互いが好きあっているなら、またチャンスは巡ってくると思う」

先生があたしの肩をポンポンと叩いた

「明日の手術が終わったら、またゆっくりと話をしようね」

先生は席を立つと、部屋の電気を消して、病室を出て行った

あたしはベッドに横になると、布団の中に潜る

お互いが好き合っているなら……か

越智君は、いつかは他の人と恋愛をして結婚をするんだろうなあ

きっとあたし以外の女性が…そういう関係になって、越智君の熱い視線を受けるんだ

ちょっと羨ましいな

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