君を愛す ただ君を……
あたしは、病院を退院してから看護学校に入学した

元気になってやりたいことはなんだろうって考えた時、あたしみたいな人たちの力に少しでもなりたいって思ったの

医師は無理だけど、看護師にならなれるかもしれないって思って

必死に勉強して、大学病院に就職した

数か月前に主任に昇格して、今は第一外科の看護主任として働いている

通勤の利便上、独身寮で生活をしてる

週に1~2回程度、家に帰るようにしてるけど、必ず大ちゃんが迎えに来てくれた

大ちゃんとはまだ結婚はしてない

婚約はしてるけど…あたしも大ちゃんも、夫婦になりたいとは思ってない

もしかしたらあたしだけが、そう思ってるだけなのかもしれないけど

大ちゃんはお兄ちゃんって感じで、ずっと一緒にいても恋愛感情は生まれなかった

「主任、おはようございまーす」

「おはよう」

あたしは夜勤の看護師たちに挨拶をしながら、ナースステーションに足を踏み入れた

「主任、引き継ぎをお願いします」

当直長であるナースから、あたしは分厚いファイルをもらうと、中を確認した

夜勤チームと、日勤チームが机を囲んで、引き継ぎの伝達事項を交わし合う

それを耳に聞きながら、あたしの目はナースが書いたファイルに向いていた

「引継ぎ中に、ちょっと失礼するよ」

年老いた医師の声が頭上ですると、ごほんと喉を鳴らされた

あたしは顔をあげると、白髪交じりの外科主任が若い白衣の男性たちを引き連れて立っていた

あ…今日から入る研修医の紹介かな?

あたしは一歩前に出ると、外科主任に挨拶をした

「おはようございます。外科の研修医ですか?」

「ふむ。今年は4人だ。いろいろとナースの君たちにも迷惑をかけるかもしれんが…まあ、面倒を見てくれよ」

軽く手を挙げると、外科主任はさくさくと廊下を歩き始めて行った

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