君を愛す ただ君を……
4人の医師は、軽くお辞儀をするだけで皆、主任のあとを追いかけるように小走りに去っていく

「ちょっとちょっとぉ…それだけ? 一人ひとりの挨拶とかしてくれないのぉ?」

マキちゃんが不満そうに頬を膨らませた

「これじゃあ、仲良くなるきっかけがないんじゃん」

新人ナースのミサキちゃんが、机をばしばしと叩きながらぼやいた

「今年の研修医はなかなかレベルが高そうなのに…。自己紹介とかして欲しかったなあ」

あたしと同期のレイちゃんも残念そうな顔をした

「忙しいんじゃないの?」

「違いますよ、主任。外科主任は、自分以外の男がモテるのが気に入らないんですよぉ」

マキちゃんがあたしの隣にやってくると、大きく頷いた

「だって外科主任って、もうおじいちゃんに近いじゃない。そういうの気にする年かなあ?」

あたしは首を傾げた

「気にするんですよぉ。とくに涼宮主任の前じゃあねえ。お気に入りですから…奥さんと別れたっていう噂だしぃ。あの4人のイケメン医師の誰かに、涼宮主任が惚れたら…とか思ってたら、自己紹介なんて暇は与えませんよ」

ミサキちゃんがため息をこぼした

ゴホンと喉を鳴らす音に、あたしはハッとすると夜勤チームから睨まれてしまった

「さあ。引継ぎの続きをしましょ」

あたしは手を叩くと、ファイルに目を戻した

それにしても、ほんとに紹介の時間が例年より短かった気がするなあ

一人ひとりの名前を紹介するくらいは、毎年あったような記憶があるんだけど…

まあ、外科の研修医といっても、そんなに接点はないだろうし、気にする必要はないんだけどね

でもマキちゃんやミサキちゃんから見たら、きっと物足りない紹介だったよね

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