君を愛す ただ君を……
あたしは靴を脱ぐと、鞄を玄関に置いたまま、そろそろと部屋の奥に進入していった

あまり片付けてなさそうなことを言っていたわりには、室内はすっきりとしていた

散らかってる感なんて全く無くて、綺麗に掃除して、片付けられていた

「家具とかって、前のアパートで使っていたのをそのまま持ってきたから、ちょっと今の部屋と合ってないけどさ。気にしないでよ」

越智君がキッチンでお湯を沸かしながら、声をかけてきた

「あ…これってドイツにいたときの?」

あたしは薄型テレビの横に置いてあるコルクボードを見つめた

金髪や赤毛の男子たちと仲良く肩を組んで撮っている写真がどーんと中央に貼ってあった

「ドイツだけじゃないよ」

越智君の言葉を聞きながら、ふと視線を下に落とした

「え? あたし?」

まるで隠し撮りしたような写真が数枚、ボードには貼ってある

それも病室にいるときのあたしだ

「あ…やべっ」

越智君がぼそっと言葉を漏らした

「なんで?」

「ドイツに行ってすぐの頃、言葉も通じなくてけっこう凹んでた時期があってさ。親父に頼んで、何枚か送ってもらったんだ。このボードに貼って、毎日眺めてた」

越智君がキッチンから、ボードを懐かしい目で見つめている

「それから仲良くなったヤツらと撮った写真をボードに貼るようにして…気がついたら、結構な枚数になってたよ」

「ふうん」

あたしは一枚一枚、写真を見ていく

「どの写真にも女の子が一人もいないよ?」

「いるわけないじゃん。興味ねえもん」

「え?」

越智君はお茶を入れながら、口を動かしていた

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