君を愛す ただ君を……
「愁のセレクトしてくれたワイン、とっても美味しかったから。ネットで買っちゃったの。今度に、私の家に飲みに来て」

ルージュの口紅が、越智君の首についてしまうのではないかというくらい密着して、軽部先生が話をしている

ちらっとあたしの顔を見た軽部先生が、ニヤリと口元を緩めて勝ち誇った顔をする

「軽部先生」

越智君が低い声を出した

なんか…不機嫌?

「なあに?」

軽部先生がすごく嬉しそうな顔をして、越智君の横顔に視線を送っている

「邪魔です」

「へ?」

「だから邪魔なんです。俺、第一外科の患者のカルテを頭に叩きこんでるですよね。今日の外科外来が始まる前に、3カ月分のカルテを覚えたいんで」

越智君の不機嫌な言葉がナースステーション内に響く

どこからともなく看護師たちの失笑が聞こえた

軽部先生があたしを睨みながら、立ち上がると、カツカツとヒール音を鳴らしてナースステーションを出て行った

越智君…少しつめたすぎない?

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