君を愛す ただ君を……
「海東君、ちょっと待って。軽部先生に何かしたの?」

「ん? あ? 何かできる立場に俺があると思うか?」

「思わないから、不思議で…聞きにきたの。だってレイちゃんが異動してないのに驚かないなんて、おかしいもの」

海東君が、自嘲した笑みを見せた

「全くさあ…女って勘が鋭いっていうか。変化に早いっていうか。誰にも言うなよ? レイが子供が駄目な理由、俺、知ってるからさ。酔ったときに聞いたことがあるんだ。だから軽部先生に直談判しに行った。けど…簡単に折れてくれなくてさあ。ちょっと手荒い交渉をしたんだ」

海東君が異様に明るい声で、笑った

「海東君……」

「ああ。同情とかすんなよ。人の弱いところを刺激しようとしたあいつがいけないんだし。しばらく俺、支部の小児科とここのセンターの行き来することになったから。せっかく今日はゆっくりと寝られると思ったんだけどなあ。休暇っつうか…しばらく家に帰ることすらできなさそうだよ」

海東君が、優しい顔で微笑むと、あたしの頭をポンと叩いた

「悪かった。レイの小児科だけでいっぱいいっぱいでさ。涼宮の分の異動取り下げは無理だった。一応、お願いはしたんだけどね。頑なに拒否された」

海東君の言葉にあたしは左右に振った

「大丈夫。あたしの分は、越智先生がどうにかしてくれるって言ってたから」

「そっか。そりゃ良かった」

海東君が腕時計を見ると、驚いた表情になった

「やべっ…小児科外来が始まっちまうよ! 涼宮がファイルを忘れるから、こんなことになるんじゃないか!」

海東君があたしの肩を叩くと、走り出した

その際、小さな声で「頑張れよ」と言ってくれた

頑張るのは、あたしじゃなくて海東君のほうじゃないのよ!

睡眠時間を削って、休みもとらずにレイちゃんのかわりに小児科に行くなんて

いつか、倒れちゃうよ

あたしはふぅっと息を吐くと、隣に白衣が見えた

「親しいんだね」

越智君が低い声で口を開いた

「看護学校のときの友人で、この病院の同期なんだ。海東君が、レイちゃんの異動を取り下げるように動いたみたい」

「ふうん」

越智君が興味なさそうに返事をした

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