君を愛す ただ君を……
すごく緊張した

ドキドキして、意識してないと呼吸するのを忘れちゃうくらいだった

家主のいない家にあがるのは大ちゃん以外の男性では、越智君が初めてだよ

大ちゃんも今は勤めている高校の近くにアパートを借りて住んでるけど…そこにだって片手で数えるくらいしか行ってない

あたしは昨日、貰ったカードキーで玄関の扉を開けた

「おじゃましまーす」と小声で呟きながら家の中に入った

昨日と変わらない新築のにおいがする

誰もいない部屋に、あたしは靴をぬいであがった

居間へのドアを開けると、黒い小さなテーブルには食べかけの食パンが皿の上に放置されていた

野菜ジュースの紙パックに、牛乳が入っていたであろう白く濁ったコップも皿の近くにある

床には、黒色のパジャマが脱ぎ捨ててあった

昨日は、すごい片付けてある部屋だなあって思ったのに…今朝は急いで出かけたのかな?

でも6時には病院に居たんだよね?

ゆっくり出てこようと思えば、出てこれたのに

あたしは鞄を居間の隅に置くと、テーブルの上の食器をキッチンに持って行って、軽く洗った

床に落ちているパジャマも、たたむと奥にある寝室のベッドの上に置いた

越智君が家に帰って来たときに、軽く食事ができるように料理を作るとラップをして冷蔵庫にしまった

手帳の端を破ると、越智君にメモを書いて、テーブルの上に置いた

料理なんて全然しないから、自信はないけど……たぶん、失敗はしてないと思うんだ

あたしは冷蔵庫の前に立って、パンパンと両手を叩いて「まずくないように」と祈った

「あ…いけないっ。遅刻しちゃうよ」

あたしは旅行鞄を目の端で確認しながら、玄関に小走りで向かった

あそこに置いておけば、帰ってきた越智君の邪魔にならないよね?

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