君を愛す ただ君を……
廊下で30分くらいガタガタと震えていたと思う

手術着の第一外科の先生が猛ダッシュで処置室に入って行くのが見えた

きっと海東君が、外科の先生と連絡をとってくれたのだろう

それから20分後に、ベッドに横たわって意識のない大ちゃんが海東君と越智君の手で運び出されてきた

「もう大丈夫だ。岡崎は無事だよ」

越智君の言葉に、あたしは一気に足の力が抜けた

床に座り込むと、大量の息を吐き出しながら、涙を流した

「良かったぁ…死んじゃうかと思った」

「センターで一晩、様子を見てから、第一外科で受け入れるから」

越智君がにっこりと笑うと、海東君と一緒にベッドを押していった

大ちゃんが、無事でよかった

越智君のおかげだよ

「涼宮主任の知り合いなんだって?」

猛ダッシュで駆けつけてくれた外科の先生が、あたしの背後に立つと声をかけてきた

「あ…井上先生、ありがとうございました」

あたしは深々とお辞儀をした

「あ、いや。僕はほとんど何もしてないんだ。越智先生は優秀な医師だよ。研修医とは思えないほどの手際の良さと素早い判断力だった。彼が駆けつけて処置をしていなければ…もし、僕の治療を待っていたら…間違いなくあの患者は命を落としていたよ。越智先生はすごいや」

井上先生は帽子を取ると、にっこりと笑ってから立ち去った

あたしはもう一度、深くお辞儀をした

井上先生も、越智君も、ありがとうございます

自動ドアが開くと、怖い顔をしている軽部先生が近づいてきた

「アナタは優秀な看護師だと聞いていたのに、とんだ間違いね」

「すみません。知り合いだったもので…気が動転してまって。ご迷惑おかけしました」

「愁が優秀だったから、何の問題もなく患者の処置ができたのよ? これが他の研修医で、医療事故でもあったらどうするの? あなたは患者の死に責任がもてるの?」

「すみません」

「今回は謝ってすむ程度で終わったけど…きちんと責任はとってもらうわよ」

「はい」

あたしはペコっと頭をさげた

「主任から外れてもらうわ。一介の看護師に戻りなさい」

あたしは、軽部先生に主任のラインが入った看護師の帽子を奪われた

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