君を愛す ただ君を……
「医師と看護師の話はちゃんと聞くもんだよ。岡崎先生」

越智君がにっこりと笑う

「お…越智愁一郎か?」

大ちゃんが驚いた声をあげて、あたしのほうを見た

「昨日、越智君が大ちゃんを助けてくれたんだよ」

「岡崎の血だらけの格好を見て、陽菜が泣いてた。看護師の仕事をすっかり忘れるくらいおお泣きして、必死に治療する医師を探したんだ。中途半端な状態で、ここを出て行かれては困る。きちんと完治してもらいたいね」

「『ひな』だとぉ? なんで下の名で呼んでるのかな?」

大ちゃんの眉間に皺が寄ると、越智君を睨みつけた

「そういう関係だからって言えば、わかってもらえる?」

「僕は反対だぞ。陽菜の婚約者として、許さない」

「婚約の期間が長すぎません? 7年間も陽菜を一人にさせてるから、俺になんか横取りされるんだよ」

越智君がニヤリと勝ち誇った顔をする

「7年間も陽菜を縛りつけていたのはお前のほうだろうが、越智愁一郎っ」

「ま、そうとも言うかな。でも縛っていた分、これ以上ない愛を捧げてる」

「はっ…よく言うよ」

「だから、治療を受けてください」

「意味がわからないなあ」

「わからなくてもいいですから。とりあえずベッドに横になって」

「帰る」

「悪化して、治療しに来たら俺が遠慮なく担当医師になりますよ? 今、ベッドに戻れば、俺ではなくて綺麗な女の先生の治療で済む。俺か…軽部先生か。どっちにします?」

大ちゃんが、軽部先生のほうに視線を動かした

「今なら、軽部先生の他に、陽菜が看護師として治療してくれるかも?」

越智君があたしの顔を見た

「そ…そうだよ。今なら、綺麗な女性の医師の手で治療が受けられるんだよ? いいことじゃない」

「岡崎先生が早く元気になってくれないと…俺、陽菜と結婚しちゃうよ?」

「なんつう脅迫の仕方だよ。わかったよ。治療を受ける…けど、越智愁一郎の世話にならないからな」

「無理だと思うよ。だってあと数時間したら、外科に移動することになってるから。昨日、直接治療したのは俺だし」

大ちゃんが「ふん」と鼻を鳴らすと、顔を歪めながらゆっくりと身体を回転させた

越智君が大ちゃんの身体を支えてくれる

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