君を愛す ただ君を……
軽部先生が、白衣のポケットから看護師の帽子を出した

主任のラインが入っている帽子をあたしの頭の上に置いた

「外科に戻りなさい。私の我儘で、振りまわして悪かったわ」

「あ…ありがとうございます」

あたしはぺこりと頭をさげた

その勢いで、帽子が床に落ちた

「礼なんて言わないで。全面的に私がいけないんだから」

あたしはもう一度、お辞儀をした

「海東君に気づかされたわ。看護師の男なんてロクなヤツじゃないって思ってたけど、違うのね。心に秘めた熱い思いって、医師だろうが、看護師だろうが関係ないのね。勉強になったわ」

「あ、じゃあ、海東君と付き合うんですか?」

軽部先生が、首を左右に振った

え? だって海東君って、軽部先生が好きなんじゃ……

「今朝、振られたわ」

「え? だって海東君は、軽部先生のこと……」

「違うわ。私じゃない。レイっていう看護師と仮眠時間に病院の外でキスをしてたわよ。派手に喧嘩もしてたみたいだけど」

軽部先生が寂しそうな顔をした

「仕事のできる女って意外とモテないのよねえ」

「そんなこと…」

「アラフォーになる前には結婚したいわね、私も」

軽部先生が、苦笑いを浮かべると、大ちゃんたちのあとを追いかけた

レイちゃんと海東君、なんだかんだ言いながらも、良い相性なんだね

でも、軽部先生がすごく寂しそうに見えちゃう

軽部先生、きっと海東君を好きになりかけていたんだと思う

「恋愛って難しいなあ」

好きって気付いたときには、相手にもう別の好きな人がいるって辛いよ

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