君を愛す ただ君を……
廊下に出ると、魂の抜けたような顔をしている大輔君が椅子に座っていた

その前には、涙を流してしゃくりあげている軽部先生が膝をついていた

「俺のせいだ…俺が…」

焦点の定まらない目で大輔君がぼそぼそと呟く

「どうしてちゃんと抜けられなかったのよ。何度も縁を切るチャンスはあったはずよ。ズルズルと関係を引き延ばしてきたから……大樹が、あんなことに…私はあんたを一生許さないから」

軽部先生が、立ちあげると大輔君を睨んでから歩き出した

大輔君は、「はあ」と重苦しい息を吐き出すと頭を抱えた

「大輔君……きっとお姉さんは、ショックであんなことを言っただけで…」

あたしは慌てて、大輔君の肩を擦って言葉を出した

「いいんです。もともと姉貴には軽蔑されてましたから…それに、恨まれても仕方ないんです。俺、本当にあいつらと縁が切れなくて、ズルズルと関係を持ってて。俺がもっと強い意志で、あいつらと接してたら違ってたんだ」

大輔君が悔しそうに涙を流した

床の上に涙がぽとぽとと落ちていく

「『将来、僕の弟になるかもしれないんだから。今回は、きっちりと決着をつけてくるよ』って先生が言ってくれて…俺、止めれば良かった」

処置室の扉が大きく開いて、愁一郎が大ちゃんが横になっているベッドを押して出てきた

大輔君がぱっと顔を上げると、ベッドに横になっている大ちゃんに飛びついた

「先生っ」

愁一郎はベッドを止めると、大輔君の頭をポンポンと叩く

「岡崎は誰のことも恨んでない。君が、まっすぐに生きるのを望んでる。だから悲しんだらいけないよ。君が笑って、楽しく生きる人生を遠くで見つめてる」

「…はいっ」

大輔君が、涙でぐちゃぐちゃの顔で頷いた

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