君を愛す ただ君を……
あたしたちは、愁一郎の実家に行くのを中止してマンションに帰宅した

愁一郎がキッチンでココアを入れてくれると、ソファの上で丸くなっているあたしに差し出してくれる

「温かいモノを飲んで、気を楽にしなよ」

「うん…でも、今は何も欲しくない」

愁一郎がテーブルにあたし専用のマグカップを置くと、隣に座ってくれた

「大ちゃんがあたしより先に死んじゃうなんて考えもしなかった。あたしは15歳までしか生きられないって言われて育ってきたから、あたしは誰よりも先に死の世界を体験するんだって気になってて…知り合いが先に死ぬなんて思いもしなかったの。大ちゃんもきっと突然のことで…死んだのに気付いてないかもね」

あたしはさらに身体を丸めると、ソファの上で膝を抱え込んだ

愁一郎がそっとあたしの肩を抱いてくれる

「岡崎ってさ。優しいよな。他人の気持ちを優先するんだ、いつも。俺と陽菜が付き合うっていうときも…反対しておきながら、最後は岡崎が身を引いてる。今回もさ。好きな人の弟だから…必死だったんじゃないの? 軽部先生と大輔ってなんか仲悪そうじゃん。だから岡崎が中に入ることで、仲良くしてもらいたかったんじゃないの? そのための第一歩が、大輔の更生だった。そんな気がするよ」

「死んじゃったら意味がないよ」

「まあ。そうだけどね」

あたしは愁一郎の横顔を見つめる

すこし眼球を赤くして、目を潤ませていた

「ごめんね。センターで、愁一郎のこと…叩いちゃった」

「いいよ」

「全然、知らない人があそこで亡くなって、遺族が騒いでいたら…あたしも退いてって言えるのに……立場がかわるとすっかり看護師での視点を忘れちゃって」

「そんなもんだよ。俺は岡崎とは身内じゃないし、陽菜よりは比較的、客観的に物事を見られただけだから」

「どうして…大ちゃんなんだろ」

「え?」

「どうして、大ちゃんが死んじゃうだろう。これからやっと幸せが舞い込んでくるっていうのに」

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