君を愛す ただ君を……
「ほら、先々週…軽部先生が止めるのも聞かずに病院を出ようとした…」

「あっ、そうよっ。そうよ! 馬鹿な患者よっ。第一外科でも、看護師たちに迷惑をかけているって聞いたわ…って、退院したの?」

私は腕を組んで、仁王立ちになると、岡崎さんを睨んだ

医者の言うことを聞かない患者って多いけど、この人は酷かった

「うんうん」と真面目に人の話を聞いているかと思ったら、背を向けた瞬間にベッドから出て「お世話になりました」とか言って、病院を出て行こうとするんだから

女の看護師に見張るように言えば、言葉巧みに女性の看護師を病室から追い出して、その好きに帰ろうとするし

男の看護師に頼めば、力づくでずんずんと強行突破しようとしていた

馬鹿以外に、この人に似合う言葉があるだろうか

「先週ね」

「は? 先週? ちょっと早すぎない?」

「まあ…僕が一日でも早く退院したがってたからね。医師も呆れたのかも」

岡崎さんが「あはは」と大きな声で笑った

「信じらんない。瀕死状態で運ばれた人が、たった1週間で退院なんて…で? さっそく夜遊び? 自由な身体になったからってまだ傷口は完治してなのよ」

私はお腹の傷口を、ピンポイントで突いてあげた

岡崎さんの顔が痛みで歪む

「仕事ですよ…仕事っ」

声が上擦りながら、岡崎さんが答えた

「仕事? 学校の教師がこんな真夜中に仕事?」

「補導です。ここら辺は、僕の通っている生徒がよく遊びに来る場所らしんですよね。だから警察に捕まる前に、家に帰ってもらうように…見回ってるんです」

「怪我人が何を言ってるの? それに先生が見回ってるなら、生徒たちはマンガ喫茶やカラオケ…あとはファミレスにでも入って身を隠してるんじゃないの?」

まあ、私もそうだったし

学生の頃は、夜遊びなんて当たり前だった

先生が見回っているほうがスリル満点で、探偵気どりで先生の後を追いかけながら、クスクスと馬鹿にしたように先生たちを笑ったものだ

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