君を愛す ただ君を……
「そこが問題なんですよねえ」

困りましたと言わんばかりの表情で、岡崎さんが苦笑した

「…で、軽部先生はぁ…」

岡崎さんが視線をあげる

私がつきさっき出てきたばかりのホテルに目をやった

「彼氏と喧嘩でもしました?」

「はあ?」

「だって、ここは一人で出てくるところじゃないでしょう?」

「やっぱ、アナタって馬鹿ね」

私はふぅっと息を吐くと、組んでいる腕を解いて、こめかみを掻いた

「え? だってここは…」

口を開きかけた岡崎さんの顔がみるみると赤くなっていくのがわかった

「必ず恋人と来なくちゃいけないって場所じゃないわ。たとえ恋人がいなくても、男がいれば入れるのよ。それくらい知ってるでしょ? 十代の何も知らないガキじゃないんだから」

岡崎さんの目じりが下がった

まるで哀れなモノを見るかのように、私を見てくる

「やめてよっ。そんな目で見ないで。別に私が満足してるならそれでいいじゃない」

「本当に満足してるの?」

胸の奥に、岡崎さんの鋭い質問が突き刺さった

「な…なんでそんなことを聞くのよ」

「僕には、満足しているようには見えないから」

「まるで教師みたい言い方ね。いつでも君の味方でいるから…とか、言っちゃって。結局頼りにならないのよ」

私は、口から出た言葉に慌てた

高校時代の教師と岡崎さんが重なるなんて…きっと仕事で疲れてるんだわ

「僕は教師だよ。クラス担任は持ってないけど。体育教師だ」

「そ…そうだったわね」

私はぷいっと視線を遠くの路地にそらした
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