君を愛す ただ君を……
「私、もう帰るから」

「じゃあ、家の近くまで送るよ」

「はあ?」

あたしは眉に力を入れた

「僕のアパートってすぐ近くにあるから、車で送っていくよ。こんな深夜に一人で帰るのは危ないから」

「平気だけど。もっと遅い時間に帰ることだってあるし…て仕事中なんでしょ?」

「まあね。でも自主的な行動だから。いつ終わりにしてもいいんだ」

「あ…アナタ、お金にならない仕事をしてたの? 怪我人なのに?」

岡崎さんが肩を持ち上げて、眉をハの字にした

「一銭の徳にもならないことを…睡眠を削って…馬鹿じゃないの?」

「よく言われる」

岡崎さんが恥ずかしそうに後頭部をかいた

「恥ずかしそうにしてる場合? お金にもならない仕事をしてどうするのよ」

「うーん、僕の中で、仕事イコールお金をもらう…とは、ならないんだよね。最低限の収入がなくちゃ生きていけないから、給料を貰わないとだけど。別にそれ以上は望んでないんだ」

「はあ?」

「不安定な時期の子供たちの支えになりたいんだ。こいつなら、自分を信じてくれるっていう大人が一人くらいは欲しいでしょ? そういう大人になりたい」

岡崎さんが、優しくて温かい笑みで微笑んだ

「私…そういう大言壮語に騙されて痛い目を見たことがあるの」

岡崎さんの手が伸びて、私の頭を撫でた

「僕がいるよ」

「ちょ…ちょっと! あ…私は、アナタより年上なのよ…たぶん。見た目的に年上っぽいのに…まるで生徒みたいに扱わないでよっ」

私は、岡崎さんの腕を払った

「ごめん。つい…。軽部先生の心って、十代の女の子と同じように不安定だから」

「ふ…不安定じゃないわよ」

「不安定だよ。『見て…私を見て、愛して』っていう目をしてる。誰かの気を引きたい…だけど誰の気を引いたらいいのかわからないって全身で訴えてる」

岡崎さんの言葉に、私は目頭が熱くなった

勝手にぽろぽろと涙がこぼれた

こんな風に、私の心の奥を言い当てた男なんていなかった

信じられない…どうして、こんないかにも貧乏そうな高校教師に私の心が読まれたのだろう

「ごめっ。泣かすつもじゃ…とりあえず僕のアパートに行こう」

岡崎さんが私の肩を抱くと、歩き出した

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