君を愛す ただ君を……
岡崎さんと看護師の影が重なる

『あの…大きい声で言えないんですけど。軽部先生ってすんごい怖いんです。勤務時間外は絶対に患者を受け付けないので…たぶん、ていうか。私が頼みに行っても怒られるだけで…そのっ』

看護師の怯えた声がひそひそと聞こえてきた

悪かったわね、すんごい怖くてっ!

私はふうっと息を吐くと、カーテンを開けた

「私の名前が聞こえたんだけど? コソコソと悪口を言うなら、私に堂々と言ってくれないかしら?」

私は看護師を睨んだ

「ひぃ…あ、すみません。軽部先生はもう時間外だったので…その…」

看護師が岡崎さんから離れると、背筋を伸ばして冷や汗を流しながらそろりそろりと横移動をする

「そうね…時間外ね。私はもう帰る時間よ」

私は岡崎さんを見た

岡崎さんはにこにこと微笑んだまま、花瓶の破片らしきものが刺さったままの腕を見せてきた

「あら、随分と痛そうな腕ね。夜勤の先生に言ってくるわ」

「せっかくここまで来たんだから、ついでに治療してくださいよ、軽部先生」

「悪いけど、勤務時間外は働かない主義なの」

「そこを…なんとか」

「呼んでくるわ」

「なら、帰ります」

「は?」

「軽部先生が治療してくれないなら、家に帰って自分でどうにかするよ。これを引っこ抜けばいいんだから」

「はあ? 何、考えてるの? 血管や神経を傷つける恐れがあるじゃない。そういうのは医師に任せるのよ」

「なら…軽部先生。お願いします」

私は肩の力を抜くと、首を左右に振った

負けたわ

回転椅子を引き寄せると、腰をかけた

「私、痛がる男って好きだから、麻酔はかけないわよ。痛いなら、泣くなり喚くなりしてちょうだい」

いじわるのつもりで言ったのに、岡崎さんが「了解」と微笑んだ


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