君を愛す ただ君を……
「深くまで傷ついてたから、縫ったわ。これから毎日、外科のほうに消毒しに行きなさいよ。越智先生にカルテを渡しておくから」

私はカルテに、今日の処置結果を書きこみながら、岡崎さんに告げた

「ねえ、こっちを見てよ」

「はあ?」

怪我してないのほうの腕が私に近づいてきたと思ったら、顎を掴まれた

無理やり岡崎さんのほうに顔を動かされた

「ちょ…っと、私はカルテを書いてるんだけど」

「うん。でも治療中も僕とは目を合わせてくれないから」

「当たり前でしょ。傷口を見て、治療してたんだから」

「僕は見てたよ。軽部先生のこと」

岡崎さんの言葉に、身体の奥が熱くなった

喉を鳴らすと、私は岡崎さんの腕を払った

「何を言ってるのか…わからないわね。処置は終わったわ。さっさと帰りなさい」

「冷たくしないで」

岡崎さんに手を握られる

温かい掌から、まるで感情が流れ込んできそうだ

「やめてよっ。軽い遊びって言ったでしょ」

「僕は本気だよ」

「だから、やめてよ。重たい想いって嫌いなの。話すことはないわ。さっさと帰って」

岡崎さんが手を離すと、立ち上がった

「好きだよ」

耳元で囁かれると、岡崎さんがわたしの太ももの上にメモ紙を一枚落としていった

「僕の番号だから。いつでも連絡して」

「すぐに捨てるから」

私は、カーテンを開けて岡崎さんの背中に向かって言い放った

「待ってる」

私に背を向けたまま、岡崎さんが軽く手をあげた

絶対に、連絡なんかしないんだから

すぐにメモを捨ててあげるわ
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