君を愛す ただ君を……
その集団の中に、見たくない男が一人交じっている

そう…大樹だ

ビールのグラスを持って、楽しそうに笑っている姿が私には憎らしく感じる

大樹の両隣には若いぴちぴちした…まるで釣り立ての活きの良い魚ような女性が囲んでいる

右側にいる女性は、大樹の太ももを厭らしく触り、左側にいる女は弾けんばかりの大きな胸を腕に押しあてながら大樹に腕に絡みついていた

ふうん、私とのデートがキャンセルになって良かったわね、大樹っ

こんな若い女の子と密着できるなんて…嬉しい限りでしょ!

心の中で、悪態をつくと私はぷいっと大樹から視線をそらした

高校教師が、こんなところで若いお姉ちゃんといちゃついてるなんて知られたら、大問題でしょうねえ

私は店の女の子が用意してくれたブランデーのロックに手を伸ばすと、すぐにグラスを空にした

大樹の姿を目にしたくなくても、耳で楽しそうな会話が入ってきてしまう

大樹もあんなふうに笑うんだ…とか、思うとさらに怒りがこみ上げてくる

あの笑いを引き出しているのが、店にいる若い女の子たちだと思うだけで、大噴火を起こしそうだ

優しく接し、仕事とはいえ気のきいた態度に、楽しい会話を提供してくれる女性たちに大樹はどんな感情を抱くのだろう

私は決して気のきいた女じゃない

店の子みたいにグラスが空けば、次の飲み物を用意する…なんてしたことがない

それは、いつも大樹の仕事だ

私専用のマグカップが空になれば、大樹が新しい飲み物を用意してくれる

料理だって全然、できない

一緒にご飯を食べるときは、大樹がいつも料理をして、私の帰りを待っていてくれる

私のマンションのキッチンは、大樹が初めて使ったくらいだ

こういう女の子たちを見て、大樹は私と比べたりするのだろうか?

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