君を愛す ただ君を……
やっぱり女は、こうでなくっちゃとか考えたりするのだろうか

『…ていうか、こいつ。まだ独身なんだぜ。俺らの中じゃ。一番に結婚すると思ってたんだけどなあ』

男の声に私の視線はまた大樹に向いた

大樹が、酔った友人にバシバシと肩を叩かれていた

『えー、じゃあ、私、お嫁さんにしてもらいたい』

隣に座っている女二人が、手を挙げて立候補する

何よ…ちょっと図々しいんじゃないの?

『大学生のときに、恋人が交通事故で死んじまって。それっきり誰とも恋愛してないんだよなあ』

『…おいっ。酔ってるからって言いすぎだぞ』

他の友人が、大樹の肩を叩いている男の腕を引っ張った

え? 死んだ?

交通事故で亡くなってるの?

大学生のときにってことは、もしかしてあの写真立ての女性?

大樹の部屋の棚に、いつも大切ように飾ってある恋人との写真

肩を抱き合って、屈託のない笑顔を向けている写真の女性は…もうこの世にいないの?

だから忘れるのに10年の月日がかかったの?

『恋人はいるよ』

え? あっさりと答える大樹に、私はウイスキーを飲む手が止まった

大樹の友人たちも、目を白黒させて驚いているようだった

『マジで?』

『うん。付き合ってる人がいる』

『ええー。じゃあ、私たちお嫁さん候補にしてもらえないの?』

お店の女の子が残念そうに口を開いた

アナタみたいな女性を、大樹は彼女になんてしないわよっ
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