君を愛す ただ君を……
私は個室から出ると、目を吊り上げて大樹を見た

先制攻撃よっ

「今日は私とのデートが潰れて良かったわね! 若くて可愛い女の子に腕を組まれて、太腿にも手を置かれちゃって。さぞかしドキドキしたでしょうね」

「別に」

はああ? 『別に』って……

もっとうろたえるとかないの?

『そんなところまで見られてたのか!』ってびっくりして、『君が一番好きだよ』とか言って、抱きつきなさいよ

私の怒りを鎮めようと努力しなさいよっ

「越智と婚約してたって本当?」

「え?」

私は、大樹の質問に頭が真っ白になった

先制攻撃は失敗に終わった上に、私が大樹の怒りを鎮める努力をしなければいけないのだと理解した

「えっと…なんで、それを知っているの?」

「今、彩香の連れが話してた」

「話してた?」

「『教授、彼女は第一外科の越智と婚約してるんですから! 行き過ぎると問題にされますよ』だって」

大樹が腕を組んで、仁王立ちになった

上から私を見下ろして、言い訳を待ってる

言い訳ってほどの言い訳があるわけじゃないけど

実際、婚約はしてないし

ばっさりと愁には切り捨てられてるんだから

「あの…実は…」

「…んで、越智なんだよっ」

え? ええ? 

ちょっと待ってよ

私の話を聞きなさいって

大樹が「ちっ」と舌打ちをすると、トイレを出て行った

いや…だから、勝手に納得しないでよ

私は、まだ何も言ってないけど!
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