君を愛す ただ君を……
私は右足を引きずりながら、大樹の部屋の中に入った

「足…どうしたの?」

大樹が私の右足を見つめながら、口を開く

私はハイヒールを脱ぐと、真っ赤に腫れている足を見せた

「つま先とかかとにマメができたのよ。ストッキングがないと…大抵こうなるの」

「なんでコンビニで買わないの? 売ってるよね?」

「だって彼氏が怒って帰っちゃうんだもの。電話しても電源を切って、完全無視を貫くし、早く会って誤解を解きたいじゃない」

はあっと私は肺にある息を全部吐き出すと、その場にしゃがみ込んだ

背中を丸めると、赤く腫れている親指の付け根を眺めた

「私…こういうの…初めてなのよ。どうしていいか、わからないの。私が勝手に怒って、そのまま疎遠になる男は星の数ほどいたけど…逆のバージョンは今まで経験したことがないのよ。どうやれば相手の怒りを鎮められるのか…なんて皆目見当もつかない。どう接していいのかも…わかんない。だいたい、真面目に誰かとお付き合いすること自体…初めてなんだから」

小さく丸まっている私の額に、大樹がキスをしてくれた

「もう…怒ってないよ」

「本当に?」

「ほんとうに」

私が顔をあげると、大樹がにっこりと笑ってくれる

「嬉しいことを3つも聞けたからね。怒りも吹っ飛んじゃったよ」

「『嬉しいこと3つ』?」

私は首を傾げて、大樹の言葉を繰り返した

「一つ目はストッキングを買う間も惜しんで、僕に会いに来てくれたこと。二つ目は、怒って疎遠にするんじゃなくて、和解しようとここまで来たくれたこと。三つ目は僕との交際が彩香にとって初めて真面目なお付き合いだったこと」

私は、大樹の腕をバシッと叩くと、微笑んだ

「単純ね」

「好きだよ、彩香」

「私も」

私は大樹と、唇を重ねた

「さあ、足の手当てをしよう…ってバンドエイドくらいしかないけど」

「ありがとう」

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